私たちの自己意識が心の争いを収め、統率力をさらに磨くために内界の奥へと旅に出た時、そのかなたで出会うのは美・善・真の輝きです。私たち人間は、美・善・真の素晴らしさを感じることなく、本当の生きる意味を見つけられはしません。 人を人たらしめるのは心の本質的な働きであり、その心の世界に存在する6つのマインド機能がこれらの3つの価値と深くつながっているからです。
元来、人類は意識的・無意識的に、美と善と真を探求してきました。輝く宇宙にある美しい地球の自然環境に適応しながら、人の美しい行為を讃えたり、真実を求めたりして、人類の心のメカニズムが進化してきた故に、私たちの自己意識は、美・善・真に正統性を置くことで、心の世界の君主として、6つのマインド機能を従わせられるようになります。
人間の自己意識が、美・善・真の価値を悟って、みずからの価値観や判断基準を構築しようとする場合、実際どのように心の世界が動くのでしょうか?
私たちの自己意識は、抽象的な上界レベルと現実的な下界レベルとの2つの世界を行き来して活動しており、高き志を持つことと、日常の雑事に煩わされることは決して矛盾するものではありません。人の自己意識は、自身の肉体が暮らす人間世界は無節操だと知りつつ格闘し、どのようにしてよりよい世界に変えていけるかを考え、信念と希望を持って活動しています。
この自己意識は、上界にある純粋な価値を混沌とした現実世界に下ろす取り組みの中で、美・善・真を探求し、心の統率力を強化しようとします。そして、自分らしい価値観を徐々に形成し、「2つの世界のどちらに重きを置くのか?」を思索しながら、外界環境に適応していきます。
ここでは、善の探求を例に挙げて、さらに具体的に説明してみましょう。まず、私たちの自己意識は、理想の生き方を思索した時、上界に視線を向けて、人々が希望するより良い世界(理想の世界)をイメージします。この時、故郷の伝統文化にある美しい芸術作品や思想哲学などが重要な役割を果たします。
その者は、限りなく広がる人々の夢や願いを寄せ集め、さまざまな価値観(正義・愛・自由・平等など)に目を向ける中で、自分の性格や経験、生活事情などに配慮し、己にふさわしいと思う価値観を選択します。
たとえば、ある青年が「弱きを助けて、正々堂々と生きたい!」と願い、自分の理念として「フェアネス」を掲げる、という具合です。この場合、上界にある「善」という普遍の価値は、「フェアネス」という形になって下界に織り込まれていくことになります。
公平を理想に掲げた青年は、現実の世界にてさまざまなケースに対処する中で、迷い苦しみ、「公平とは何か?」と自問しつつ、上界にある「理想の世界」と下界にある「実践の世界」とを往復するようになります。なぜなら、
◆上界;抽象的な価値観は、生きた現実の豊かさを理解するのに十分ではない。
フェアネスの意味を一般的にとらえすぎると、例外的なケースに対応できなくなる。そのため、その意味について、今に生きる人々はどのように考えて行動をしているのかを、地に足のついた体験から確認し、人々の現実感を確かめてみる必要があります。⇒下界に向かう意識
◆下界;現実に直面する出来事には、さまざまな事情がある。
現実の世界で、あまりに複雑で細かい個々の事情に入り込んでしまうと、状況が読めずに思考が停止してしまう。あるいは、直面するケースを超える問題の広がりを見逃してしまう。そのため、雑多な感情を切り捨て、より普遍的に「公平」の意味を考えてみる必要性があります。⇒上界に向かう意識
このように彼の自己意識は、上界と下界を何度も何度も往復しながら、公平を貫くための方法を試し、自分の能力や性格に合う戦術を模索し、「フェアな行動を貫くためにはどうすればよいか?」を学んでいきます。
生々しい経験から得られた教訓や反省点を整理する中で、彼は今の時代におけるフェアネスとはどういうものかを理解し、自分なりの価値判断を固めていくことになります。
心の世界にて6つのマインド機能は、互いに相依って成立しています。言い換えると、人の心の世界は自身の中に否定の契機を含むことによって心のバランスを保っています。たとえば、
・直感(不合理な人格:上美) ⇔ 思考(合理的な人格:上真)
・精神(民族の誇りを抱く人格:上善)⇔ 集団(組織の利益を求める人格:下真)
・愛情(家族愛を尊ぶ人格:下善) ⇔ 肉体(自己の生存を重んじる人格:下美)
という具合です。人間の自己意識は、それらの機能と結び合って、決意や考え方という単一の分割できないものを作り上げており、何か確固とした決意をもって表現に臨んだ場合、相反する感情による割りきれない気持ちが残ったりします。
千変万化の世の中では思い通りにならないことも多く、外界の出来事ばかりに目を奪われていると、自分の心の世界でいったい何が起きているのかを適切に理解することはできません。「フェアネス」を掲げて努力する青年も、考え通りに事が進まず不運が重なった時期は、深く苦悩する中で、自分の歩む人生について、「そもそも公平を貫く生き方に意味があるのだろうか?」と自問する日もあるはずです。
・私は本当に何をしたいのだろうか?
・私は何者だろうか?
と彼の自己意識が途方に暮れ、この世に自らが誕生した意味を意識的・無意識的に探し求める。
そして、静かな場所で深く深く内省することで、心の世界に存在する6つのマインド機能に出会い、それらとの対話が始まることで、美・善・真の輝きに気付く糸口を得るに至ります。
心の世界に存在する6つのマインド機能は、感情・印象・気分・ひらめきなどとして訴えてきます。それぞれのマインド機能は異なる人格を映し出す中で、私たちの自己意識は、個々のマインド機能に対面し、彼ら彼女らの声を慎重に吟味する中で、各機能の役割を理解し、気づきを得ることで、自らの生きる意味を悟り、行動の覚悟も定められるようになります。
フェアネスを理想として努力する青年の自己意識は、上界と下界を何度も往復し、6つのマインド機能と深く対話する中で自らを知る。できる限りマインド機能らを納得させられるような判断基準を構築してゆく努力の中で、内界の統率力を磨きつつ、自らの行動に関して「何をやるべきか?」の大義を得て自主的に判断を下してゆくことで、確固たる価値観の構築に至るでしょう。
更に、正しい美の道を歩む青年には、数多くの試練が待ち受けているはずですが、ごまかしの利かない生き方を貫き、多くの試練をクリアすることで、青年は自らを好意的に受け止めて瞳を輝かせ、心の統一感を体得できるようになります。