1-3 純粋な自己表現
THEME
美しさの本質を、
どのようにして表現すべきか?
人間の内面を映し出す時代に生まれ、
詩情が漂う雰囲気の中で、
自分にしか知り得ない
美の形態に巡り合う。
その感動を表出し、
重苦しい自己抑制から
解放された時、
芸術の価値は
表現のレトリックを越えてゆく。
1 表現意欲
美しさの本質は、人間同士の共感を呼び起こす力を備えています。人間は人生を真剣に生きて、美しいものに出会うと、心が揺さぶられて、どうしても他者に伝えたくなるような気持ちが生まれてきます。また、苦しい時でも、「この体験を誰かに伝えることができる」と考えるだけで、大変な力を発揮できるものです。自己の体験の中で、見つけた美の輝きが誰かの役に立つことを望むからです。美の価値に気づき、表現意欲が生じたのであれば、その美しさを素直に表出してみましょう。
2 心の新陳代謝
あなたの感動体験を、ただ自己の内側から湧き上がるままに表現すれば、直ちに素晴らしい作品が生まれるわけではありません。心の海には経験という川から運ばれてきた堆積物が溜まっています。人間の心は多様な経験と混ざり合って複雑な状態であり、心の内を吐き出すと、必ず自己の執着、欲望、悪感情などが不純物となって出てきます。
自己の感情に任せてただ不満を述べたり、理屈っぽい自己主張をしたり、自分の悲しみをさらけ出すだけなら、作品に暗い影が残ってしまいます。それのみか、他者から受け入れた物事の見方が、固定観念や先入観という不要物となって出てきたりもします。もし他者の評価を過剰に意識した生活をしているならば、適切な自己表現をすることはできません。自分の心に正直に向き合わず、主観的な感覚を尊重していないからです。そのような心理状態で自己表現をすれば、他者に言われてきたことを復唱するだけの内容になってしまいます。自己の体験によらない未熟な解釈や無責任な言葉は、表現上の混乱を招くだけです。
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